ミミズとカニと、みんなの気持ち
園長先生と一緒に、園庭でダンゴムシや、チョウチョ、アリ、幼虫などを見つけてはじっくり観察したり、みんなでおしゃべりしたり・・・『虫なかま』の輪はどんどん広がっています。
その反面、生き物と触れ合うときには、当然「可愛い!大好き」だけでは済ませられないこともあります。
子ども達の「ぼくの宝物!」という気持ちが強くなりすぎると、虫かごから逃げていかないようにした結果死なせてしまったり、触りすぎて弱らせてしまったり・・・そんなこともありますね。
犬や猫は嬉しいとき、しっぽを振ったり、鳴いて甘えてきたりします。でも、虫や魚や幼虫は、見た目の行動では分かりませんよね。虫たちにもみんなと同じように『気持ち』や『心』ってあるのか無いのか・・・科学的には未解明であり、目に見えない部分でもあります。
昨年、園長先生が虫博士になって子ども達にお話を聞かせて下さる『不思議発見タイム』で、アゲハチョウのお母さんは卵を産むとき、幼虫が食べられる葉っぱを色んな木々の中から選択して、しかも敵に見つからない場所に産み付ける・・・と教えて頂きました。私も同じお母さんという立場で考えたとき、アゲハチョウのお母さんの気持ち(本能?)にすごく共感したのを覚えています。そう考えると、どんな生き物にも、気持ちがあるような気がしてなりません。
そんな、虫や生き物の気持ちを、子ども達なりに考え話し合う場面に、偶然立ち会うことが出来ました。園長先生もその場面を見ていて下さり、子ども達に教えるばかりではなく、見守ることの大切さを改めて感じた一場面を皆さんにもご紹介します。
7月8日(金)の朝、生き物コーナーは、いつものように虫かごを持った子ども達で大賑わい。
教務課で仕事をしていると、何気なく子ども達の会話が聞こえてきました。
せっかく捕まえたから、カニのエサにする!
このミミズ、どうやって入れる?
でも、ハサミで切られちゃうのはかわいそうだよ。
ミミズを園庭で見つけた子ども達の一人が、「ミミズはカニのエサになるからカニにあげようよ。」と話し、それに対して色んな意見が飛び交っていました。
せっかく見つけたミミズをカゴから出したくない子もいれば、カニにあげてみたいという子も、本当にカニが食べるの?と言う子も、様々です。
そっと声をかけてみました。「ミミズさん、まだ生きてるね。ミミズはどんな気持ちかな?」
すると、一人の男の子が必死の形相になって「いたいよーいたいよー、おうちに帰りたいよーって言ってる!おうちに戻してあげようよ。ねえ、かわいそうだよ!」と大きな声でみんなに話しました。
ミミズの気持ちになりきって、一生懸命に顔を歪めながら話すその子に、まわりのみんなは圧倒されていました。
すると、こんな意見が出てきました。
カニさんにチョキチョキされるのは、いやなんじゃない?
でもさ、カニにもエサがいるよ。カニもお腹空いてるんだよ。
どうする?
う~ん、やっぱりミミズをお外に戻してあげる。
えーっ、じゃあカニさんのエサがないよ。
子ども達の中には、カニの気持ちをしっかりと代弁してくれているかのように話す姿もありました。
いつも生き物当番の時に、カニにあげてる「カメのえさ」があるよ。それを代わりにあげたらどうかな?
生き物当番を毎日交代で行っている子ども達は、カニのエサのことを知っています。子ども達は、代わりの食べ物があるなら・・・と納得したようでした。
じゃあ、はやくお外に返してあげようよ。
お外のどこに帰してあげればいいのかな?
土がたくさんあるところ!
お花が植えてあるプランターにする?
ダメダメ、みんなが虫さがしで見つけちゃう。
じゃあ、もともといたところへ帰してあげる!
そうする!!でも、どこだっけ・・・?
園庭をキョロキョロしながら場所を探していくと、「ここだよ!」ボルダリングの脇で見つけたミミズだったようです。
ミミズをこの辺で逃がしてあげる?
違うよ、ミミズは土の中がいいんだよ。ここ、掘ってみようか?
掘ってみよう、掘ってみよう。
土は柔らかめの場所がいいの?固めがいいのかな?
柔らかい方が良いよ、ケガしてるから。
大変!ミミズが絡まってカゴから出せないよ、そんなに外に出るのが嫌だったのかな。
食べられたくなかったのかな。
こわい!ぼく触れない!でも痛がってるから早く出さなきゃ。
勇気を出して、カゴの中から一生懸命出してくれたけど、みんなは顔を見合わせて「あ・・・」
しっぽが少し切れちゃった。
ひとまず、ミミズを柔らかな土の中にそっと埋めて、柔らかい土を被せてくれた子ども達。私の足がその場所に近付くと、「先生、そこはミミズがいるからふんじゃダメ!!」と、さっきまでカニを擁護していた子が教えてくれました。
このちぎれちゃったしっぽ、どうする?
しっぽは生きてないよ。
じゃあ、カニさんのエサにしてもいいの?
そうしよう!
子ども達は、最初にミミズを捕まえてきたときとは少し異なる表情で、カニさんにそっとミミズのちぎれてしまった尻尾をあげました。
園長先生は、こんなやり取りをじっと見守ってくださり、また何事もなかったかのように子ども達を虫取りに誘って下さいました。
命を教えることは簡単ではありません。それでも、生き物に触れてエサをやったりお水をかえたり、育てる経験はとっても大切なことであり、毎日当たり前のように虫たちのお世話をして下さる園長先生の姿から、子ども達も私たちも色んなことを教えられています。
この、命あふれる環境で過ごす毎日を今以上に大切にしていきたいと思える機会を、子ども達から与えられたように思います。
7月12日には、年中組さんと園長先生とで、初めての「心の日」を行います。命や感謝の気持ちに触れるひとときを大切に行いたいと想います。